12.リスクアプローチの弊害

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 先ほどお話をしましたリスクアプローチの弊害なのですけれども、監査計画の段階で監査のやることは大外決まってしまうわけなのです。これは皆さんの目には入らないところなのですけれども、どこにどれだけリスクがあって、誰がどこをやるというようなことは、監査計画の段階で決まります。今、この監査計画をきちんとドキュメンテーションしないとアウトなのです。公認会計士協会がチェックに来たときに、これがないとアウトなのです。これは、まだ私が大手の監査法人にいるときからそうなっていますから、もう10年以上、これがないとアウトなので必ず作っています。ただ、リスクコントロールもあいまいなのです。どうやってリスクの評価をしているかというと、明確に決まらないです。固有のリスクが高いとか低いとか、さりげなく使っていましたけれども、このリスクアプローチの監査をするときに、どういうランクでこのリスクの評価をしているかというと、高中低の3段階なのです。「中と高の間ってどこなのだよ」と言われると「んー」なのです。実は。だから人によって、これは中で、これは高のようなところがあるにはあると思います。あとは会社によって違うと言いましたけれども、自分だけ違うと、なぜ違うのだというような話になりますので、同じ監査法人の中でいろいろな会社の監査をやっています。現金や売掛金や棚卸資産や引当金などは、どの会社でも基本的にはあるわけです。そこの固有のリスクを自分のチームだけ大幅に変えるというのは結構難しい話です。ついでに言うと、これは大手のなんとか監査法人なんちゃらかんちゃら、横文字が付いているところ共通の団体ですが、ここはグローバルネットワークのツールを使っています。カタカナが一つ抜けていますが、あそこも同じです。。彼らはグローバルネットワークの中でリスク管理をしたいと思っているので、監査のツールもグローバルバージョンなのです。日本語訳されていますけれども。ここに書いてあるのは、どのような世界、どのような会社も世界中で共通して使われている手続書に当てはめて監査を実は行っているというのはあり得ないのです。だから実態に合っていないリスク評価、リスクアプローチが適用されているケースがあるのです。

 なぜそのようなことをしているのかというと、いかにリスクアプローチ監査を行っているかというのを監査人が証明できるかというのが、裁判になったときなどにいろいろ問題になってくるので、こういうことをきちんとやっていますよという、ドキュメンテーションを残すために彼らはこのアプローチを取らざるを得ないのです。なぜグローバルネットワークのものを使っていてOKなのかというと、こちらのほうが断然厳しいのです。グローバルさんはアメリカですから、アメリカから来ています。日本のものよりもアメリカのほうが断然厳しいです。そう考えると、アメリカに上場しているあるいはこれから上場しようという会社の場合は、当然それに当てはめていくことになります。日本ローカルで上場している会社の場合は、やり過ぎになっている可能性があります。皆さんとしてはやられ過ぎです。だから、いいのです。トゥーマッチなので。それに答えていれば、別に問題はないわけです。本来のレベルよりも高いハードルが提示されて、その高さで飛んでいるわけですから、あまり問題ないのです。ただし、いろいろなリソース等の問題で、そこまでうちできないよねという状況だとすれば、ここも少しメスを入れられる、形を変えられる、そういう一つの要素になるのではないかと思います。

 まずは皆さん、リスクアプローチがあって、背景で必ずリスクの評価をされているというふうに思ってください。皆さんにできることは、一つは内部統制のレベルを上げることです。それは、J-SOXとニアリーイコールですけれども、全部イコールではないです。売掛金の手続きをなんだか面倒くさい、だんだん確認状の枚数も増えてきたとしたら、これは売掛金の内部統制について評価が低いのです。皆さんの会社では。皆さんの会社の中の内部調査のレベルを上げなければいけない。それはJ-SOXではんこをもらっているというのとは、違う問題なのです。J-SOXではんこを付いているというのは、最低のレベルですから。ダメよねという場合には欲しくて、いいよねという場合には言ってくれないのです。皆さんにできることはそれです。

 固有リスクということについてもぜひ知っていただきたいと思います。これは勘定の中ですから、BSPLをいきなり上からこう見ていっていただいて、全部付いています。全部の科目についてこういうリスクがあって固有のリスクがあって構成のリスクがあって、彼らは監査手続き上のリスクというのを見ています。最終的には、不正や誤りなどを監査人は見逃さないように、そのリスクを最小限にするように彼らは手続きなりを考えていきます。なぜ、このようなことをやらなければいけないのと思われる部分があるとしたら、そこだけ固有のリスクからいったん考えていただいてもいいかなと思います。

 多分全部それを皆さんで考えるのも、難し過ぎるので、リスクが低くて手続きもこんなものでいいよねというところはそのまま進んでいっていただければと思います。ちょっとこれ困ると思う部分があったら、ぜひリスクにもさかのぼって考えていただけるといいかなと思います。

 もう一つ、これも結構重要なテーマだと思うのですけれども、重要性です。重要性がないから直さなくていいとか、重要性があるから直してくださいとかあります。監査人によって決まっているのです。いくらか決めるのです。重要性の基準値があって、その金額を超えていなければ、審査しないという基準を必ず持っています。基本上場会社の監査をしていて1円も間違いがなかったのはやはりないのです。監査している間に見積もり入れているものの結果が出てしまっています。やはりある。そういう実務的な要請に答えた、重要性の基準値はあります。ここまでだったら、これを超えたら直さなければいけない。その計算式もあります。ただ、その計算式は監査法人で違います。いろいろな特殊条件があると、また変わってきます。ここでこの式に当てはめればOKという式は、提示はできないのですけれども、必ず彼らは持っています。

 初めに感覚的に持っておいていただきたいのが、経理の担当の方が、重要性が高いから低いからということで、判定をしてはダメです。最終的な、抜け道だと思ってください。基本は絶対に1円単位まで合わせていただいて、経理はやるべきだと思います。絶対そうです。ただし、そうは言っても、極めて限定された時間の中で仕事をやっていますので、1円間違っているから全部短信直しますというのは、聞いているだけでいくら掛かるか分かりませんので、そういうことはしなくてもいいように重要性の基準値を設けていると思ってください。大体僕の経験でも「これは重要性ないから直さなくていいじゃないですか」と担当者レベルの方が言う会社は、言っては悪いですけれども、ろくな会社ではないです。近いうちに大体おかしくなってくる。マインドとしては絶対にそういうふうに思わないでほしいです。ただし、とは言ってもみんな重要性の基準値の中で逃れている会社はたくさんありますので、それが悪なわけではないです。ではこの重要性の基準値はどうやって決められているのかというと、いろいろあるのですけれども、一番大きい指標は税引き前利益の5パーセントです。いろいろ総資産や純資産、もろもろの比率を掛けて平均値を出したりするのですが、大体これです。これを基準にして多少いろいろな調整を加えたりします。なので、利益がスカスカの年はきついのです。売り上げが10兆円ある会社ですけれども、今年の利益を真面目に考えて計算してみたら5000万円しかありませんでした。結構やばいのです。5000万円の5パーセントって、250万円です。兆の会社で250万円だったら、普通かなりありますよね。期ずれがあったとか、ミスがあったとか、報告もれがあったとか。これは結構やばいです。だから、最近特に厳しくなっている。利益がだんだんに出ている人はいいわけです。多少間違っていても。この5パーセントというのは、なぜ5パーセントに決められているかというと、一応投資家目線なのです。投資家がその数字を見たときに、税引き前利益の5パーセントの範囲内だったら多少違っていても彼らの投資の意思決定に影響しないだろうというのが、一つの判断基準なのです。だからといって、6と5にそんなに大きな差があるかというと、よく分からない。そこをごまかすために税引き前の利益だけではなくて、いろいろ調整項目を使っているケースがあるのですけれども、やはり税引き前利益の5パーセントというのは一つ大きな指標だと思います。これを超えてしまうとどうしても直さざるを得ないです。よほど特殊な理由がないと、修正せざるを得ないということです。これは税引き前利益だけではないのですけれども、ここの効果が一番大きいと思っていただいていいと思います。基本は重要性の基準値ですが、できれば重要性の基準値なんて言葉を使わないほうがいいです。経営者も考えてしまいますからね。こういうミステイクもありましたけども、重要性がないので、今回は修正しませんでしたと、考えてしまうではないですか。社長も見ているわけです。どこが間違いかということは。黙っていて、関心がないかもしれませんけれど、またこんな間違いがあったということをひそかに思っているケースもありますので、ぜひそれはないようにしていただくといいと思います。